米労働省労働統計局(BLS)は2026年10月30日、7〜9月期の雇用コスト指数が前期比0.8%上昇したと発表しました。4〜6月期の0.9%増から伸びは小幅に鈍化しましたが、人件費は増加を続けています。
何が起きたか
確認済みの事実として、民間企業と州・地方政府を合わせた労働者の雇用コストは季節調整済みで前期比0.8%増でした。内訳は賃金・給与が0.7%増、福利厚生費が0.9%増です。前年同期比では雇用コストが3.4%、賃金・給与が3.1%、福利厚生費が3.9%上昇しました。
民間企業だけを見ると、雇用コストは前期比0.8%増、前年比3.4%増です。BLSの物価調整後の賃金・給与は前年比0.6%減となり、名目賃金の伸びが物価に追いつかなかったことも示されました。民間の医療給付費は前年比6.4%増と、総賃金より高い伸びです。
背景
雇用コスト指数は、職種や産業構成の変化による影響を抑え、企業が従業員に支払う賃金と福利厚生費の変化を測る指標です。平均時給より労働コストの基調を捉えやすく、FRBが賃金インフレを見る際の重要材料の一つとされます。
今回の前期比0.8%は市場予想と一致し、前期からは減速しました。前年比の賃金・給与は3.1%で、1年前の3.2%からやや鈍化しています。ただし、福利厚生費は3.9%増で、人件費全体が急速に落ち着いたとは言い切れません。
投資家への影響
米国株には、賃金上昇の鈍化が企業の利益率を支える面があります。人件費比率の高い小売、外食、宿泊、医療、物流などは、賃上げ圧力が弱まればコスト負担が軽くなる可能性があります。一方、実質賃金の低下が続けば、家計の購買力が弱まり、消費関連企業の売上に逆風となり得ます。
FRBにとっては、賃金コストが前期から鈍化したことが追加利上げを急がない材料になる一方、前年比3%台の伸びと高い福利厚生費はインフレ警戒を残します。金利が高止まりすれば、高PERの成長株や借入依存度の高い企業には逆風ですが、金融株には利ざや面で追い風になる場合があります。
NISA利用者・家計への影響
S&P500や全世界株式をNISAで積み立てる人は、賃金鈍化を「株高確定」や「景気後退確定」と結びつけないことが大切です。企業利益にはプラスでも消費にはマイナスという両面があり、FRBの判断にはPCE物価、雇用者数、失業率なども影響します。
日本の家計には、米国の金利見通しを通じてドル円が影響します。米金利の高止まりでドル高が進めば、輸入品や海外旅行の負担が増える一方、外貨資産の円換算額は増える場合があります。為替変動で生活費が不足しないよう、近く使う資金を円で確保しておきましょう。
FP松尾の視点
FP松尾としての見解は、名目賃金と実質賃金を分けて見ることです。名目賃金が増えても物価上昇が上回れば、家計の購買力は低下します。投資のリターンだけで補おうとせず、固定費、現金余力、昇給や転職も含めた収入計画を同時に整えることが、長期投資を続ける土台になります。
注意点・反対の見方
市場の見方では、前期比の鈍化を穏やかな賃金インフレの証拠と捉える見方があります。反対に、雇用コストは遅行性があり、福利厚生費の上昇が企業コストを押し上げ続けるとの見方もあります。さらに、実質賃金は使用する物価指数で結果が変わるため、家計の実感と完全に一致するとは限りません。
まとめ
米雇用コストは7〜9月期に前期比0.8%増、前年比3.4%増でした。伸びは小幅に鈍化した一方、民間の実質賃金は前年比0.6%減です。NISA利用者は一つの指標で相場を予想せず、企業利益、消費、金利、為替のつながりを確認しながら分散投資を続けましょう。
参照元
米労働省労働統計局「Employment Cost Index — September 2026」(2026年10月30日)
Reuters「US labor costs rise moderately in third quarter」(2026年10月30日)
