産休に入ると給与が減る、または支給されなくなる会社員にとって、生活費を支える制度が出産手当金です。ただし、出産費用に充てる「出産育児一時金」や、育児休業中の「育児休業給付金」とは役割も支給元も異なります。
結論からいうと、出産手当金は、勤務先の健康保険に加入する被保険者本人が、出産のために仕事を休み、その期間の給与が出ない、または手当金より少ない場合に対象となります。支給額の目安は休業前の標準報酬月額を基に計算した日額の3分の2です。
①自分が健康保険の被保険者本人か、②産休中に会社から給与が出るか、③勤務先と加入先の健康保険へいつ申請するかを確認しましょう。
出産手当金とは?産休中の収入減を補う制度
出産手当金は、出産のために会社を休み、給与を受けられない期間の所得を補う健康保険の給付です。協会けんぽでは、被保険者本人が対象と案内しています。
会社員の配偶者として健康保険の扶養に入っている人は、被保険者本人ではないため、出産手当金の対象ではありません。国民健康保険にも原則として同じ仕組みはありませんが、国民健康保険組合などが独自給付を設けている場合は加入先へ確認してください。
支給条件は4つ
一般的には、次の条件をすべて満たすかを確認します。
- 勤務先の健康保険・共済組合の被保険者本人である
- 妊娠85日(4か月)以後の出産である
- 出産のために会社を休んでいる
- 休業期間の給与が支払われていない、または出産手当金の日額より少ない
給与が一部支払われる場合は、それだけで対象外になるとは限りません。出産手当金の日額より給与の日額が少なければ、原則として差額が支給されます。会社独自の産休手当、有給休暇、通勤手当・住宅手当などの扱いも含め、事業主の証明内容を確認しましょう。
いつからいつまで?原則98日分
支給対象となるのは、出産日(予定日より遅れた場合は出産予定日)以前42日から、出産日の翌日以後56日までの範囲で、会社を休んだ期間です。多胎妊娠は産前98日から対象になります。出産日は産前期間に含まれます。
| ケース | 産前 | 産後 |
|---|---|---|
| 単胎妊娠 | 42日 | 出産翌日から56日 |
| 多胎妊娠 | 98日 | 出産翌日から56日 |
予定日より遅れて出産した場合は、予定日から実際の出産日までの日数も支給対象に加わります。反対に、予定日より早く出産した場合は、実際に休んだ対象日数が短くなることがあります。
出産手当金はいくら?計算方法と具体例
協会けんぽの1日当たりの支給額は、原則として次の式で計算します。
支給開始日前12か月間の各標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 3分の2
標準報酬月額は、基本給だけではなく一定の手当を含む報酬を区切りのよい等級に当てはめた社会保険上の金額です。毎月の手取り額や総支給額と同じとは限りません。
たとえば、直前12か月の標準報酬月額の平均が30万円なら、1日当たりはおおむね6,667円です。単胎妊娠で予定日どおりに出産し、対象となる98日すべて休んで給与が出なかった場合、概算は約65万3,000円になります。
なお、加入期間が12か月未満の場合は、本人の継続した各月の標準報酬月額平均と、協会けんぽ全被保険者の平均額を基にした基準額のうち低い方を使います。支給開始日が2025年4月1日以降の場合の基準額は32万円ですが、これは全員の上限額という意味ではありません。
出産育児一時金・育児休業給付金との違い
| 制度 | 主な目的 | 主な支給元 |
|---|---|---|
| 出産手当金 | 産休中の収入減を補う | 健康保険 |
| 出産育児一時金 | 出産費用の負担を補う | 健康保険 |
| 育児休業給付金 | 育休中の収入減を補う | 雇用保険 |
出産育児一時金は、出産日時点で公的医療保険に加入し、妊娠4か月(85日)以上で出産した人が対象となる制度で、出産手当金とは別に受け取れます。育児休業給付金は産後休業の終了後などから始まる雇用保険の給付です。名称が似ていても申請先と対象期間が違うため、会社の担当者とそれぞれ確認しましょう。
申請方法と振込までに確認すること
協会けんぽの場合は「健康保険出産手当金支給申請書」を用意し、被保険者、事業主、医師または助産師が必要な欄を記入して、加入する支部へ提出します。健康保険組合や共済組合では様式や提出先が異なる場合があります。
産前分と産後分を分けて申請することも、まとめて申請することもできます。分割すると早く受け取れる可能性がある一方、事業主の証明が申請ごとに必要です。家計では、産休入りから初回入金までの生活費を先に確保しておくと安心です。
- 加入している健康保険と申請書の提出先
- 会社の給与締日と事業主証明の時期
- 産前・産後を分けて申請できるか
- 給与・手当が一部支払われる期間
- 出産予定日と実際の出産日に差が出た場合の修正
退職後も受け取れる場合がある
退職前までに被保険者期間が継続して1年以上あり、資格喪失日の前日に出産手当金を受けているか、受けられる状態であれば、退職後も残りの対象期間について継続給付を受けられる場合があります。
ただし、退職日に出勤すると、資格喪失後の継続給付を受けられません。退職を検討している場合は、自己判断で勤務日を調整せず、事前に勤務先と加入先の健康保険へ確認してください。
傷病手当金との調整と社会保険料免除
出産手当金と傷病手当金を同じ期間に重複して満額受け取ることはできません。出産手当金が優先されますが、傷病手当金の日額の方が多い場合は、その差額が傷病手当金として支給されます。傷病手当金の条件は「傷病手当金とは?いくら・いつまで・申請方法」で確認できます。
また、産前産後休業期間中は、事業主が届け出ることで健康保険・厚生年金保険の保険料が本人分・事業主分とも免除されます。免除期間も将来の年金額の計算上は保険料を納めた期間として扱われます。日本年金機構の案内も確認しましょう。
FP視点:給付額だけでなく入金までの資金繰りを見る
家計で重要なのは、最終的な給付総額だけではありません。産休中に給与が止まる時期、会社の締日、申請書の証明・審査、入金までの時間差があります。生活防衛資金から何か月分を取り分けるかを先に決めておくと、給付の遅れにも対応しやすくなります。
民間医療保険を検討するときも、出産手当金、高額療養費、産休中の社会保険料免除などの公的保障を先に把握し、足りない部分だけを考えるのが基本です。「民間の医療保険は必要?」もあわせて確認してください。
よくある質問
扶養に入っている配偶者も出産手当金を受け取れますか?
原則として受け取れません。出産手当金は勤務先の健康保険などの被保険者本人が対象です。扶養家族にも支給される出産育児一時金とは区別してください。
有給休暇を使った日は対象ですか?
有給休暇の賃金など、出勤していない日に給与が支払われる場合は調整対象です。給与の日額が出産手当金の日額以上ならその日の支給はなく、少なければ差額支給となるのが原則です。
出産予定日より遅れたら損をしますか?
予定日より遅れた期間も支給対象に加わるため、所定の条件を満たせば対象日数が増えます。実際の出産日を反映して申請します。
出産手当金は医療費控除から差し引きますか?
国税庁は、出産手当金は休業中の給与減少を補う給付であり、医療費を補填する保険金等には当たらないと案内しています。医療費控除の計算では、出産手当金を医療費から差し引く必要はありません。
まとめ
出産手当金は、産休中の収入減を補う健康保険の給付です。対象者、休業期間、給与の有無、標準報酬月額を確認し、出産育児一時金や育児休業給付金とは分けて考えましょう。給付見込み額だけでなく、申請から入金までの生活費も準備することが、家計を安定させるポイントです。
公的情報
- 協会けんぽ「出産手当金」
- 協会けんぽ「出産で会社を休んだとき」
- 厚生労働省「出産手当金」
- 厚生労働省「出産育児一時金等について」
- 日本年金機構「産前産後休業中の保険料免除」
- 国税庁「出産のために欠勤した場合に給付される出産手当金」
本記事は2026年10月13日時点の公表情報に基づいています。健康保険組合・共済組合では取り扱いが異なる場合があるため、勤務先と加入先へ確認してください。
